あの圧倒的な敗戦から数年、この国が再び立ち上がり国際社会としての体裁を整えていく過程において「無かったこと」として闇に葬られ続けてきた、一つの生き方の形態が存在した、という視点から独自の歴史観で「戦後」に切り込んでゆく押井守的「もう一つの昭和史」。
やってることはまあ、いわゆるフェイク・ドキュメンタリーなのだけど、ここで語られる「記述される事の無かった昭和の亡霊」みたいなモノは確実に存在するわけで、”フェイク”という隠れ蓑を通して本質的なモノを描く、即ち虚構を隠喩として最大限活用して「リアル」を浸食していくという手法は、ある意味押井守という作家の真骨頂であり、立喰い・路地・犬・鳥・廃屋などのキーワードや何かに憑かれたかのような長台詞、暴走する内輪ネタといった「押井エッセンス」を全くブレーキを踏まずにぶちまけている点を差し引いてもなお、これほど押井らしい作品もないんじゃないかと思ってみたり。
まあ、実際かなり評判の悪かった実写とCGアニメを融合させた怪しげな映像に加え普段の押井節に拍車がかかった、観客を完全に置いてきぼりにするドラマ性皆無の狂気じみた演出を見るにつけ、正直どう考えても「商業映画」として成立するとは思えない作品(というかどっから見ても「実験映画」ですよね)なのも確かなんで、これを「エンタメ」と言い放って劇場公開してしまうというのは、売らねばならぬ宿命とはいえ、ちょっとあざといヤリクチだった気がしないでもないです。個人的には全編通してかなりスキなテイストだったんですけどね。…うーん。
立喰師列伝 | |
公開: | 2006年 |
制作: | 日本 |
監督: | 押井守 |
出演: | 吉祥寺怪人 兵藤まこ 石川光久 鈴木敏夫 他 |
![]() 立喰師列伝 [ 押井守 ] |
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