ドイツの狂人監督ユルグ・ブットゲライトによる作品で、まあ読んで字の通りネクロ嗜好の方々の素敵な日常を描いたステキ映画なんですけど、いやもういろんな意味でお腹いっぱい。しばらくピザとかパスタとか食べれなさそう。ゲフー。
しかも何がイヤって、この作品が実は「ホラー」ではなく「嗜好に対する殉教」を描いた映画だということでしょうか。要するに極端な意味での「純愛映画」。映画で描かれるのは「死体」に対する主人公のひたすら純粋な執着のみであって、観客を怖がらせようとか、そういう気は全く無いんだよねこの監督。困ったもんだ。
で、こういった形態の愛情を貫こうとするなら、そりゃ世間じゃ生きて行けなくなるわけで当然の帰結として主人公は自らを「最も愛おしい存在=死体」へと変態させるべく自慰行為を行いつつ割腹するわけなんですが、この描写がまた妙に生々しくて、観ててさすがにグッタリ。こーいうシーンの細部描写にやたら凝りまくってしまうブットゲライトの職人気質(ていうか好き者根性)を微笑ましく思いつつも、これを上映禁止処分としたドイツ政府の判断は実に正しかったとしみじみ実感。
でも「嫌い」じゃないんだな、これが。困ったもんだ。自分にはネクロフェリアの気はない(あたりまえだ)のだけど、生と死、美的なものとグロテクスなもののあまりにダイレクトなコントラストは、見てて本当に「美しい」と感じたし、恐らくそれこそがブットゲライトの真の狙いだったのだろう。実際、相反するモチーフを交互に描くことでモチーフ自体を際立たせるという手法は映画的にはさほど珍しい技術ではないのだけれど、ここまでストレートで両極端な(死体とエロスだよ?)チカラワザでごり押しされると、もう素直に感心するしか無いよね。ネットなどで検索すると彼の作品は「映画ですらない」などと言われていたりもするけれど、ここまでやったらもう立派に「映画」でしょ、これは。もっとも「物凄くヘンな」映画であるという点に異論はないですが。
同様に「死」というモチーフを扱ったブットゲライトの2作目「死の王」もグロな表現をぐっと押さえ、非常に繊細で素敵な映画に仕上がっていて好感が持てた。もちろん生を肯定するような内容ではなく、むしろ「GOGO!自殺!」な内容であるからして、当然政府から上映禁止処分を受けることになるわけなのだが、それはまた別のお話。
Nekromantik | |
公開: | 1987年 |
制作: | 西ドイツ |
監督: | ユルグ・ブットゲライト |
出演: | ダクタリ・ロレンツ ベアトリス・M ハラルト・ランド 他 |
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