アヴァロン

SF

これまで作家・押井守が心に描いていたであろうヌーヴェルヴァーグや50~60年代のヨーロッパ映画に対するオマージュ的志向性にCGや特殊効果といった最新技術を融合させ、「フィルムノワール的質感を持ったサイバーパンク」とでも呼ぶべき全く新しい映像を生み出した意欲作。映像処理システム「DOMINO」を日本映画としては初めて導入し製作されたという、モノクロフィルムに彩色を施したような不思議な絵面には初見時かなりの衝撃を受けました。

というか正直、押井守の製作する実写作品って昔からずっと苦手だったわけですよ。描かれている題材自体はアニメ同様非常に深いテーマ性を持っているものの、いざ画質やらセットやら「映像そのもの」の部分となるともう「一昔前の自主制作映画」的というか何というか、気概と知識だけは人並み以上にあるものの、それを自己の表現に昇華するだけのセンスと技術が伴っておらず、既存の作品に対するオマージュばかりが鼻についてしまうという、「映画オタクの一番悪い部分が突出しましたよ」みたいな匂いがしてしまって、どうにもこうにもお腹いっぱい状態。

まあ『紅い眼鏡』や『Talking Head』などはどちらかというと「観念映画」というか演劇的な構造を持った作品であったため、映像的に多少アヤシゲな部分も書き割りや演出でなんとか誤摩化せた部分もあったと思うのだけど、ドラマを前面に押し出した『ケルベロス』あたりになると何だかもう”B級台湾映画”みたいなノリで、思考に技術が追いついていない(というか金銭的な意味で追いつけない)感じが画面全体に溢れかえってて、個人的にはまるでダメだった次第(好きなシーンも多いのだけど)

要するに押井守という作家の表現における作家性を描き出す媒体として「実写映画」という表現手法は絶対的に不向きである、というのがこれまでの自分の中における押井守観だったわけなんですが、今作はその印象を完全にひっくり返してくれた様に思います。ひょっとして押井の欧州アングラ趣味とCGを駆使した最新技術がヘンな形で化学反応を起こし本人も意図しなかったような表現になってしまったんじゃーなかろうかと邪推してみたり。

ただまあ、それで押井が変わったのかと問われれば、実のところそれほど変わってはいないんですけどね。廃屋・少女・鳥・犬といったモチーフ然り、『うる星やつら2』から一貫している「自分を含めた”現実”とは何か?」というテーマ然り。要するにアニメだろうと実写だろうと撮る国が違おうと、押井守はどこまで行ってもやっぱり押井守なのだと実感。ここまで一貫して同じ事を言い続けている作家も珍しいと思う。

サイバーパンク、しかもヴァーチャル世界でのバトルゲームという極めてエンタメ色の強いモチーフを選びつつも、結局ヌーヴェルバーグ的な匂いのする方向(要するに娯楽を期待してくる一般的な観客を置き去りにする方向)に着地させてしまうというのは、何というかもう映画バカの「業」としか言いようがないですね。困った人や。
ロケ地にポーランドを選んだ理由は「実銃が使えるから」と本人は語っていたけれどやはりポランスキーの影を追う意識がどこかにあったのではなかろうかと思ったり。

同様に仮想現実空間でのゲームを描いたクローネンバーグの『Existence』も今作とかなり似通ったコンセプト(製作時期も近い)で作られているとは思うんだけど、どちらかと言うとこちらはエログロ&フェティッシュな感覚に焦点を当てている印象。まあ作品内容と監督の性格がアレな点に関してはどっちもどっちなわけですが。

あと登場人物の名称でマーフィ-、カシナート、トレボーとか「ウィザードリィ」の名詞がざくざく出て来ますが、あれって初めは単なる遊びかとも思ったんだけど実は意外と映画を構成する要素の中でも重要なモチーフになっているのかも知れないと思うようになって来ました。とりわけ主人公「アッシュ」の名称。「ウィザードリィ」ではDQやFF等と同様に戦闘中などに死亡したキャラクターを寺院で生き返らせることができるわけですが、このゲームの特徴としてこの復活が必ずしも100%成功するとは限らず、蘇生に失敗したキャラは”灰化(Ash)”してしまい、そして灰になっている状態でもう一度蘇生に失敗すると”消滅(Lost)”となり、永遠にそのキャラクターは失われてしまうこととなります。

すなわち主人公の名称である”アッシュ”は彼女が”現実”と”ロスト”(現実から逸脱した状態)の狭間にいる存在である事を示しており、どちら側にも属さないが故に最も客観的な視点で(つまりは監督の代弁者として)世界を捉える事が出来るキャラとして設定されていることが伺えます。まあ、監督の真意はさておき、少なくとも『我々がリアルと認識してその客観性を信じて疑わない”この”現実世界が仮想現実ではないという証明など不可能である』という、いつもの押井節を語っていく上での狂言回しとしては非常にふさわしいネーミングだったのではないでしょうか。 個人的には押井守のこーいうちょっとしたセンスって、割と好きなんですよね。


Avalon
公開:2001年
制作:日本・ポーランド
監督:押井守
出演: マウゴジャータ・フォレムニャック
ヴァディスワフ・コヴァルスキ
イエジ・グデイコ
ダリュシュ・ビスクプスキ 他

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