ぼくの伯父さん

コメディ

建築・アート・ファッション・車など50年代フランスの「おされ」なエッセンスが凝縮された、ジャック・タチ監督の代表作。

まったくもってツイてないものの本人的にはどこ吹く風な天然トラブルメーカー・ユロ伯父さんとその甥っ子の少年の交流、およびそこで起こる珍騒動の数々という、言ってしまえばまあそれだけの話なのだけれど、フランスのコメディにありがちな「毒っ気」が全く存在しない笑いでありながらベタベタした人情喜劇に走るわけでもなく、日常が進んでゆく様をひたすら淡々と描き出していく姿勢は非常にクールで小気味よい感じ。単調ながら柔らかで愛らしいテーマ音楽も素晴らしい。

一応「フランス」を舞台にしてはいるものの、この作品においてタチは「現実」をありのままに描き出すというリアリズム的な姿勢は一切とっておらず、あらゆる登場人物の性格や動き、風景・構図にいたる全てを綿密な計算のもと配置していく事で一種の理想郷を構築しようとしている。この作品世界には「悪意」は存在せず、「軽蔑」や「嫌悪」といった負の感情も発生することはない。そういった世界であるからこそ、どう考えても「社会不適合者」なユロ伯父さんもまた皆に愛されるキャラクターとして存在し得ているのであり、逆に言うならば「映画」という理想郷をわざわざ作り上げでもしない限りユロ伯父さんのような人間に生きていく余地などないのが「現実」なのだという、タチ流の皮肉たっぷりな怒りの表現だと読むこともできるだろう。

理想郷としてのフランス。可愛くてポップで優しい、妄想のフランス。それこそがタチが実現したいと願った「現実」の形だったのではないだろうか。もちろん当時のフランスを取り巻く社会情勢は決して明るいものではなかったはずだが、そんな状況であるからこそ、この「ぼくの伯父さん」という作品は多くの人に愛される事となったのではないかと思う。そして、ジャック・タチという作家がある時点を境に世間から受け入れられなくなっていったのも、次第に現実が映画を浸食していく過程において、夢としての「理想の世界」をダイレクトに描くには社会的にも、また映画の受け手たる観客の意識的にも限界に至ってしまったからに他ならない。

現在、映画を含めあらゆるメディアは日常と地続きな「リアル」を追い求め、もはやフィクションにおいても「理想郷」などという甘い幻想は一笑に付せられてしまうといった状況になっているが、やはりトコトコと街を歩き回るユロ伯父さん1人存在できない世界というのはどうにも味気ないというか、不健康というか、やりきれない息苦しさを覚えてしまう今日この頃ではある。


Mon Oncle
公開:1958年
制作:フランス・イタリア
監督:ジャック・タチ
出演: ジャック・タチ
アラン・ベクール
ジャン=ピエール・ゾラ
アドリアンヌ・セルヴァンティ 他

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