自分の「映画を見る目」および「世界を見る目」に深刻な後遺症を与えてしまった、テリー・ギリアム監督による異色の近未来SF不条理映画。
SFというフォーマットやコメディ調の展開等、一見すると取っつき易そうな印象を受けるものの、実際は作品の至る所に「ギリアム成分」(超有毒)が含有されており、耐性の無い人間が不用意に触れたりすると後々までヘンな悪夢にうなされかねないデンジャラスな作品だったりするため、底抜けにハッピー、もしくは見終わったあと優しい気持ちになれたりする類の作品を好みがちな方は注意が必要。
そもそもテリー・ギリアムという人はモンティパイソンの頃から強烈な毒気を含んだ黒い笑いを追求してきた人物なのだけれど、今作においてもその姿勢は一貫しておりSFにもかかわらず妙にアナログな舞台装置の数々や、現代社会のカリカチュアであるグロテスクな世界観、オーバーアクション気味の演出などあの手この手で我々を取り囲む「現実」に内在する陰鬱さ・バカバカしさを鮮明に浮き彫りとしていく手法はまさにギリアムの独壇場。何と言うか、たたみ掛ける冗談やバカ話の中に、ぽそっとシリアスな批判を混ぜ込んでくるタイプが一番危険人物であるという顕著な例ですな。
極端に情報が管理され、あらゆる事に書類手続きが必要な閉塞した社会にあってもなお「人間らしく生きること」を望む主人公が、理想を追いつつも空回りして泥沼に落ち込み、最終的には悪夢の様な「現実」に補足され自由を奪われてしまうというエンディングはあまりにも救いが無く衝撃的ではあるものの、「永遠に夢の世界にいられるのであればそれは当人にとってはどこまでもリアルである」という視点から眺めてみるとこのラストは「現実という悪夢からの解放」であるとも言え、決してバッドエンドなどではなく、むしろ究極的・絶対的なハッピーエンドであると言えるのかもしれない、とか思ってみたり。
エンディングで流れるテーマ曲「ブラジル」の半ば強制的にハッピーを演出するような躁的な華やかさには「この世界において幸福な場所など夢の中以外には存在し得ない」というギリアム自身のペシミスティックでシニカルな姿勢が顕著に現れている様に思え、観るたびに奇妙な清々しさを感じつつもちょっと憂鬱な気分に陥ってしまいます。
未来世紀ブラジル / Brazil | |
公開: | 1985年 |
制作: | イギリス |
監督: | テリー・ギリアム |
出演: | ジョナサン・プライス ロバート・デ・ニーロ キム・グライスト マイケル・ペイリン イアン・ホルム 他 |
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